エミー賞、ゴールデングローブ賞をはじめほか数々のアワードを受賞!
視聴者・批評家・著名人を巻き込み、全米で社会現象を巻き起こした衝撃作
◆イントロダクション
2013年、現地時間10月29日にシリーズ最終回を迎えた本作は、その前週に記録したシリーズ最高視聴者数660万人をはるかに上回る1030万人を記録するという、これ以上ない有終の美を飾った。2008年1月のプレミア放送の視聴者数は140万人。余命いくばくもない高校の化学教師が、かつての教え子と違法ドラッグを製造するという衝撃的な設定は、決して愉快なものには思えなかったのかもしれない。だが、番組の完成度の高さと斬新さはすぐに口コミで評判を呼び、尻上がりにぐんぐん視聴者数を伸ばしていった本作。視聴者数1000万人越えはケーブル局の番組としては破格で、同局AMCの大ヒットシリーズ「ウォーキング・デッド」の記録に肩を並べるものである。とりわけ、最終となるシーズン5は社会現象とも言うべき異例の盛り上がりを見せて、18~49歳層の平均視聴者数も670万人と格段にアップ。「ブレイキング・バッド」が、いかに幅広い視聴者の心をとらえることができたのかを証明する数字である。
一貫して非常に完成度の高い「ブレイキング・バッド」の口コミでの人気の拡散は、批評家をはじめとする各界の著名人の熱狂から始まったと言っても過言ではない。「ニューヨーク・ポスト」「USAトゥデイ」「エンターテインメント・ウィークリー」「タイム」といったあらゆる有力誌が毎シーズン、こぞって絶賛に近い高評価を発信し続けた。その一方で、人気作家スティーヴン・キングから俳優のサミュエル・L・ジャクソン、「ゲーム・オブ・スローンズ」の原作『氷と炎の歌』シリーズの著者として有名なジョージ・R・R・マーティンらが、折りに付け、惜しみない賛辞を番組に贈っている。極めつけはイギリスの名優アンソニー・ホプキンスが、感激のあまり全5シーズンの全米放送終了後に主演俳優ブライアン・クランストン宛に直筆の手紙を書いて送ったというもの。番組の存在を知ってからわずか2週間で全エピソードを視聴したホプキンスは、「ウォルター・ホワイトの演技は、人生でみた中で最高のもの」と大絶賛。手紙には、「番組のおかげで信念を取り戻すことができた」などの賛辞が書き綴られていたというエピソードからも、本作の影響力の大きさ、完成度の高さを実感させられる。
タイトルの『ブレイキング・バッド(Breaking Bad)』とは、「to break bad」=したいことをする(よくないことに使う)という言葉から来たスラング (俗語)だという。「規則や法を破る、道を踏み外す、悪事に手を染める」と いった意味で、まじめ一筋、家族のために頑張ってきたものの50歳にして中年の 危機を迎えた高校教師が、あっという間に裏社会の重要人物となって いくとい う、まさに本作の内容を端的に表していると言える。
ブラックで痛みを伴うユーモアを体現しながら、気弱でしょぼくれた中年男性からドラッグ界の帝王となり”怪物”と化していく。シーズン1の冒頭からシーズンを重ねていくごとに変貌を遂げていくブライアン・クランストンの演技は圧巻! 顔に深く刻まれた苦悩と凄味が増していくさまは、人間の業を感じさせて背筋がぞくぞくするほどの名演だ。エミー賞では最優秀主演男優賞を4度受賞し、2014年1月にはゴールデングローブ賞も受賞。対照的に、情けなくも憎めない相棒ジェシー・ピンクマンを演じるアーロン・ポールもまた、エミー賞最優秀助演男優賞を3度受賞している。また、妻スカイラー役のアンナ・ガンも尻上がりに評価が高まり、エミー賞最優秀助演女優賞を2013年、2014年に2年連続で受賞した。その他、多くの主要な賞レースで主要キャストが候補入りや受賞を果たしており、俳優たちの名演技が本作の最大の見どころとなっていることは言うまでもない。
TV界の最高の栄誉とされるエミー賞では、好まれる作品の傾向というものがある。「ブレイキング・バッド」はどちらかいえば何年もかかって、世間が「いい加減に認められるべき」としびれを切らした時点で受賞が可能となるタイプ。エミー賞の作品賞では2013年に悲願の受賞を果たし、2014年のゴールデングローブ賞でも最優秀作品賞に輝き、W受賞の快挙となった。また本作にとって最後の年となった2014年エミー賞では、ドラマ・シリーズ部門で2年連続となる作品賞をはじめ、主要部門を制覇!作品賞に加え、主演男優賞、助演男優賞、助演女優賞、脚本賞、編集賞と全6部門を受賞し有終の美を飾った。
企画・製作総指揮は、「X-ファイル」などを手掛けてきたヴィンス・ギリガン。本作におけるチャレンジングな姿勢はアメリカのTV界の常識を覆す画期的なものであり、エンターテインメントの限界を押し広げることに成功したという点でも非常に意義がある。また、既成の概念にとらわれない大胆な脚本、渇いたタッチで独特の世界観を作り出したエピソード監督、撮影監督らスタッフの手腕も特筆に値する。
「ブレイキング・バッド」の主な受賞歴は以下の通り。
【エミー賞】
2014年/ドラマ部門作品賞、主演男優賞(ブライアン・クランストン)、助演男優賞(アーロン・ポール)、助演女優賞(アンナ・ガン)、脚本賞(モイラ・ウォーリー・ベケット)、シングルカメラ編集賞受賞
2013年/ドラマ部門作品賞、助演女優賞(アンナ・ガン)、シングルカメラ編集賞受賞
2012年/助演男優賞(アーロン・ポール)受賞
2010年/主演男優賞(ブライアン・クランストン)、助演男優賞(アーロン・ポール)受賞
2009年/主演男優賞(ブライアン・クランストン)、シングルカメラ編集賞受賞
2008年/主演男優賞(ブライアン・クランストン)、シングルカメラ編集賞受賞
【ゴールデングローブ賞】
2014年/ドラマ部門作品賞、主演男優賞(ブライアン・クランストン)
このほかにも多数の賞で受賞、ノミネート。
シーズン1に引き続き、シーズン2でも連続してエミー賞、テレビ批評家協会賞ほか、数々の主演男優賞に輝いたウォルター役のブライアン・クランストン。シーズン1では、ごく平凡な男の追い詰められた切迫感と焦燥感を体現して圧倒されたが、シーズン2では次のステージに突入。ウォルターがドラッグ界の重要人物となっていく過程でのクランストンの演技は、細部まできっちりと計算されており素晴らしい。とりわけ、これまでは受動的だったウォルターの行動が、シーズン2では自らの意志で”ハイゼンベルク”としてドラッグ市場を支配したいという欲求が芽生え、ブルーメスの純度の高さに化学者としてのプライドと執着を見せ始める。そして思いがけない残酷さも見せるウォルターの、次第に険しさが増していく目の表情の変化など、一挙手一投足から目が離せない!
米の有名な批評サイト「Metacritic」は、厳しい評価が信頼できるサイトとして知られている。本作のシーズン1は100点満点中74点とかなり高いものだったが、シーズン2は100点満点中85点と数字が大幅にアップした。エミー賞の作品賞にもシーズン1に続きノミネートされたことでも実力のほどは証明済みだが、シーズン2は1話ごとの完成度の高さに加えて、シーズンを通しての伏線の張り方が完璧で、シリーズ最終話のカタルシスは見事としか言いようがない。映像、音楽、演出面はいずれも文句が付けようがないが、アバン(タイトルが出る前のプロローグ的な部分)の作り込み方は、HBOの秀作ドラマ「シックス・フィート・アンダー」などを想起させるハイセンスでひねりの効いたものとなっており、特筆に値する。また、アルバカーキの青く広い空に横に平たいランドスケープは、映画的なスケール感があると共に壮絶な物語と、すかっとした抜け感&渇いた空気感の対比も見事だ。
ドラッグ界の大物人物トゥコとの取引から、ウォルターとジェシーの運命はさらに予想外の方向へと進んでいく。ウォルターとスカイラーの夫婦生活やハンクのキャリア、そして優しさが弱点となるジェシーの人生を大きく狂わせていくのだが、シーズン2のキーワードは”因果”と言えるだろう。本作はドラッグを扱っているが、そこに足を踏み入れた人間がどのような末路を迎えるか、ドラッグの恐怖は嫌というほど伝わる内容となっている。人は自分が行ったことは全て自分に返って来る、因果はめぐるとでも言わんばかりの物語の根底にある哲学が、シーズン2では非常に劇的な形で描かれており見応えがある。
シーズン2のラストで起きた飛行機墜落事故は、ウォルターとジェシーに関わる多くの人々の運命を変えることになる。そのアフターマス(余波)から始まるシーズン3の冒頭では、ウォルターは自分の犯した罪に対する恐れからドラッグ密造から足を洗おうとし、ジェシーは更生施設で自分を見つめ直す。だが、マネーロンダリングを手掛ける食えない弁護士ソウル、そして表向きは事業家で裏の顔は冷徹なマフィアのガスらがウォルターが生み出すクリスタルメスを放っておくわけはなく、いよいよ恐ろしい本性をあらわにしていく。一方、シーズン2でハンクがとどめを刺したトゥコを殺害した犯人をめぐって、メキシコの麻薬カルテルが本格的に動き出す。常人の想像を絶する、残酷なメキシコの麻薬カルテルの実態がいよいよ明らかとなり、ウォルターの手には追えない状況が加速する中で、離婚を決意した妻スカイラー、義弟ハンクら家族の関係にも大きな変化が訪れる。そして、ドラッグにより廃人同様となっていたジェシーは立ち直ることができるのか? 想像をはるかに越えるスケール感と衝撃の展開で新たな局面を迎えるシーズン3は、過去2シーズンをさらに上回る評価と人気を獲得して、国際的にもその評判の勢いは増すばかり!
シーズンごとに凄味が増していくクランストンの役作りは、もはや神がかっている。「悪人にはなれない」と言いながらも、後戻り出来ない深みへとはまってしまった人間の苦悩と業を体現して、ひたすら圧倒される。4度エミー賞主演男優賞に輝いたのも、もはや当然というほどの貫禄だ。一方、ジェシー役のアーロン・ポールは、このシーズン3では新たな境地を開拓したと思われるほどの熱演を披露。とりわけ、シーズンフィナーレの衝撃的な展開で見せるポールの鬼気迫る演技は見事で、このシーズン3でエミー賞助演男優賞を受賞するという快挙を成し遂げた。ちなみに、プロデューサーのヴィンス・ギリガンによれば、ジェシーはもっと早い段階で死ぬことを想定していたというが、ジェシーは本作に欠かせない存在となったことは言うまでもない。
シーズン2の第11話で初登場した、事業家の顔を隠れみのとしてアメリカ南西部のドラッグの売買を牛耳るガス。シーズン3では、圧倒的な存在感を発揮してウォルターとジェシーの運命を左右する。演じるジャンカルロ・エスポジートは、若い頃から多くの舞台でキャリアを積み、オビー賞ほか数々の賞に輝く実力派。『ドゥ・ザ・ライト・シング』『マルコムX』など映画出演も多く、TVシリーズでは、「ホミサイド/殺人捜査課」や、最近では「ワンス・アポン・ア・タイム」のゲスト出演で日本の海外ドラマファンにもおなじみだ。そのガスの片腕で暗殺や諜報活動などを実行する謎めいた男マイクの、静かだが不気味な存在感もキラリと光っている。演じるベテランのジョナサン・バンクスの、じわじわと迫り来る渋い魅力にも注目したい。また、もの言わぬ2人組の殺し屋を演じるのはルイス・モンカダとダニエル・モンカダの兄弟俳優。彼らの独特の個性は番組の強烈なスパイスとなっている。
シーズン2第8話から登場する、ウォルターとジェシーが関わることになる弁護士のソウル・グッドマンは、ひょうひょうとしているがなかなかに食えない人物だ。コミカルな言動はコミックリリーフ的な役割を果たしているが、彼の存在が今後のウォルターたちの運命に関わる鍵を握るものとなっていく。異色の弁護士をユーモラスかつ魅力的に演じるのは、監督、脚本家、プロデューサーとしても活躍するベテランのボブ・オデンカーク。映画『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』やTV「ママと恋に落ちるまで」や「アントラージュ」にゲスト出演のほか、2014年に全米放送されたTV版「ファーゴ(原題)」にも出演している。
全米では「ブレイキング・バッド」のスピンオフドラマとして、弁護士ソウルを主人公にした「Better Call Saul」(劇中でのソウルの事務所のキャッチコピー)の制作が決定。「ブレイキング・バッド」の前章を描くプリクエルとなる本作には、シーズン3から登場する謎めいた私立探偵マイクも登場するとか。ウォルターの存在感もさることながら、脇役のキャラクターが各々に際立つ個性を発揮していることは、彼らをフィーチャーしたスピンオフが誕生することからも明らかだ。「Better Call Saul」は、全米で2015年に同AMCにて放送予定。
タイトルの真の意味を痛感させる怒濤の展開
シーズン3の最終話で、ウォルターのためにゲイルを殺したジェシー。シーズン4では、ガス、メキシコの麻薬カルテル、そしてDEA(麻薬取締局)と重症負うも粘り強く刑事魂を発揮するハンクにより、ウォルターとジェシーは徹底的に追い詰められていく。シリーズ最高とも言える怒濤の展開を迎える中で、生き残りを賭けたウォルターの決断と行動は、まさにタイトルの『ブレイキング・バッド(Breaking Bad)』(「規則や法を破る、道を踏み外す、悪事に手を染める」と いった意味の俗語)の本当の意味を痛感させるものである。一度悪事に手を染めると後戻りは出来ない、どんどん深みにはまって身動きが取れなくなっていく中で、窮地を脱するために人はどこまで落ちることができるのか…? 冴えないが善良だったシーズン1冒頭のウォルターに比べると、シーズン4のウォルターの表情、顔つきはまさにワルそのもの。優秀な化学者であることの”エゴ”を丸出しにし、本性をさらしながらももがき苦しむウォルターを演じるブライアン・クランストンは、筆舌を尽くしても語り切ることはできない名演の連続だ。
シーズン4の最大の見どころのひとつが、これまで運命共同体だったウォルターとジェシーが本音でぶつかり合う展開だ。これまではどこかウォルターに対して一歩引いたスタンスだったジェシーだが、ここにきて本気かつ全力でぶつかりあうブライアン・クランストンとアーロン・ポールのガチンコ演技対決は必見!ポールはシーズン3の演技でもエミー賞助演男優賞を受賞しているが、シーズン4ではウォルターへの信頼と疑念の狭間で苦悩しながらも、善良さと優しさを伝える複雑で繊細、かつ力強い演技を見せてシリーズを通して俳優としての成長が如実にわかる。
巧妙に張り巡らされた伏線を回収していく脚本の巧みさは、本作が最も優れている点のひとつである。だが、シーズン4ほどそのことを思い知るにふさわしいシーズンはないと思わせるほどの完璧さに、もはや批評家の熱狂は頂点を迎えたと言える。核となるのは、ガスの過去とメキシコのカルテル、さらにはヘクターをめぐる因縁の関係だ。文字通り”血で血を洗う”ということばがふさわしい復讐合戦のてん末は、有り得ないほどの過激さと興奮に満ちている。とりわけ異色の存在感を放つ、冷徹で非情なガスを演じるジャンカルロ・エスポジートの静かなる熱演には心底ぞっとさせられる。近来稀にみる強烈なヒールと言えるだろう。さらにウォルターとジェシーの窮地をいかにして切り抜けるのか、ハンクやスカイラーをめぐる問題は、クリエイターのヴィンス・ギリガンが自らエピソード監督と脚本を手掛けたシーズン最終話で見事な着地点を見る。この鮮やかさには、もはやうなるしかない!
◆シーズン5の見どころ
全米では2013年9月に、ついにシリーズ最終回を迎えた本作のシーズン5は、一貫して高いクオリティを誇るシリーズの中でも、最高とも言われる完成度の高さを誇っている。シーズン4でヘクター・サラマンカを利用してガスを殺害したウォルター。全てが上手く解決したように見えたのは一瞬のことで、問題は以前にも増して深刻かつ山積みだ。もはや後戻りのできないウォルターとジェシーが始めたドラッグ・ビジネスは、ガスの部下だったマイクと弁護士ソウルを巻き込み怒濤のクライマックスへと突入する。果たして、スカイラーとジュニア、ハンクとマリー、そして彼らを取り巻く人々の運命は…!?
アメリカで本作のシーズン5は、前半8話を2012年7月~9月に放送し、後半8話は2013年8月~9月に放送しており間が空いている。だが、視聴者の興味は途切れることがないばかりか、シリーズ最終回は1030万人以上の視聴者を記録するという快挙となった。この数字は前週の660万人も大ヒットというべき数字だが、それに比べてもさらに2倍近いもので、ケーブル局の番組としては破格の数字だ。また本作は、これまでエミー賞、ゴールデングローブ賞など、主要な賞レースを賑わせてきたが、2014年エミー賞では、ドラマ・シリーズ部門で2年連続となる作品賞をはじめ、主要部門を制覇!作品賞に加え、主演男優賞、助演男優賞、助演女優賞、脚本賞、編集賞と全6部門を受賞し有終の美を飾った。
シーズン5で、とりわけ評価が高いのが第14話「オジマンディアス」だ。アメリカの有名サイト「IMDB(インターネット・ムービー・データベース)」では、40000名近いユーザーから異例中の異例とも言える10点満点の評価を得ている。本作を絶賛する著名人のひとりで、人気ファンタジー小説「氷と炎の歌」シリーズの原作者であり、そのドラマ化「ゲーム・オブ・スローン」のプロデューサーでもあるジョージ・R・R・マーティンは、ウォルターの怪物ぶりを自著の内容を引き合いに出して絶賛。シーズン5の後半では「誰もエミー賞で『ブレイキング・バッド』に勝ることはできないだろう」とまで断言している。第14話のエピソード監督は、映画『LOOPER/ルーパー』でスマッシュヒットを記録した俊英ライアン・ジョンソン。本シリーズではほかにシーズン3第10話「かなわぬ最期」、シーズン5第4話「51歳」の計3話の演出を担当しており、いずれもスタイリッシュでシャープな映像世界に真に迫る人間描写は卓越している。ちなみに、ジョンソン演出の第14話の脚本を手掛けたモイラ・ウォーリー=ベケットは、2014年、エミー賞(ドラマ・シリーズ部門)の脚本賞を見事受賞している。
シリーズ最終話「フェリーナ」で、エミー賞の監督賞と脚本賞にノミネートされたクリエイターのヴィンス・ギリガン。7年に渡り関わった「X-ファイル」では多くの脚本を手掛け、テレビドラマに関する知識は全て「X-ファイル」から学んだというギリガンは、完全オリジナル・ストーリーである「ブレイキング・バッド」で、その才能を見事に開花させた。番組の最後を飾る驚異的な視聴者数を記録した最終回は、ギリガンの作品への思いが炸裂した最高のフィナーレとなっている。いずれも甲乙付け難い、傑作エピソードが連続する同シリーズではあるが、やはり生みの親であるギリガンのひとつの集大成とも言うべき最終話は、海外ドラマファン必見の衝撃と感動に満ちている。
ウォルター役ブライアン・クランストンはハリウッド版『GODZILLA』でも存在感を見せ、ブロードウェイ・デビューを飾った舞台「All The Way」ではトニー賞を受賞。さらに、この舞台はスティーヴン・スピルバーグらによって映像化が決定、主演は舞台と同じくクランストンが演じる予定であり、その活躍ぶりには目を見張るものがある。全シーズンを通して6年連続でエミー賞にノミネートされているクランストンのファイナル・シーズンでの演技もまた筆舌に尽くし難い気迫のこもった名演であるが、本作の成功の大きな要因のひとつとして、アンサンブルの素晴らしさを抜きには語れないだろう。第66回エミー賞では、クランストンのほかアーロン・ポール、アンナ・ガンが受賞したが、ディーン・ノリスほかレギュラー全員がノミネートされてもおかしくない熱演を見せた。また、2014年のスクリーン・アクターズ・ギルド・アワードでは見事にアンサンブル賞を受賞。クランストンを筆頭に、共演者の息の合った熱演こそが、作品の素晴らしさを最もよく物語るものである。
シーズン5の第2話で初登場するリディアと、第3話に初登場するトッドは最終章の良きスパイスとなって物語を彩っている。メスの原料であるメチルアミンをガスに供給していた、ドイツに本社をおく巨大複合企業の物流部門の責任者でシングルマザー。ガスと取引きしていたことから神経質な猜疑心が加速していくリディアを、イギリス出身のドラマやハリウッド映画『バニラ・スカイ』などにも出演するローラ・フレイザーが好演している。また、有害生物駆除の業者だったがメスの製造に関わるようになるトッドは、ウォルターの肥大するエゴを助長させるかのような存在と言えるかもしれない。演じるジェシー・プレモンスは、映画『ザ・マスター』や人気ドラマにゲスト出演する個性派で、本作でも独特の存在感を発揮している。
原題 | ブレイキング・バッド BREAKING BAD |
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データ | 2008~2013年/アメリカ/二カ国語&字幕/60分/全62話/HD作品 |
製作総指揮 | ヴィンス・ギリガン |
出演 |
ブライアン・クランストン アーロン・ポール アンナ・ガン ディーン・ノリス ベッツィ・ブラント RJ・ミッテ ボブ・オデンカーク ジャンカルロ・エスポジート |
あらすじ |
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